先日開催された2022UPS Healthcareフォーラムに参加した際、私は自分がなぜヘルスケア業界で働いているのか、つまり自分の目的について深く考えてみました。 それは、私が自分の仕事を愛する理由です。患者さん、つまりサプライチェーンの末端にいる人が、私たち一人ひとりを信頼して届けてくれるのです。
個人的には、ある患者さんのことが鮮明に記憶に残っています。私の仕事の使命を象徴するような患者さんで、Nickという名前でした。数年前、私はノースカロライナ州のリトルリーグでコーチをしていました。Nickは慢性喘息でした。いつも吸入器を携帯する必要がありました。その当時、私は医薬品企業に勤めており、工場でまさにNickが持っていた吸入器を製造、販売していました。吸入器は彼の命を救うものでした。
ヘルスケアのサプライチェーンでの仕事は、業界の日々の活動で見失うこともあります。私たちがしていることは、現実の生活をしている人々に影響を与えるということを、時々思い出させてくれるのは良いことです。革新的なヘルスケア製品の効率的、効果的な流通を確保し、サプライチェーンの最終段階のギャップをなくすことで、Nickのような子供が命を救う医薬品を入手できるようになります。
当社のグローバルヘルスケア環境は日々変化しています。変化に対する課題はサプライチェーンに影響を及ぼし、コスト増加をもたらします。ヘルスケアでの1つの注目すべきトレンドであるニアショアリングが、近年とみに意志決定の中心となっています。
ここ数年、ヘルスケア製品の調達と生産を、市場と顧客に近づけることが、少しずつ語られるようになっています。それには次のような理由がありました。
- アジアの生産とサプライチェーンのエクスポージャーとコストについての疑念
- 人件費の上昇
- 遠距離の市場への配送時間の問題
- 環境・社会・ガバナンス(ESG)サステイナビリティ目標の強化
当然のことながら、パンデミックによりこれらすべての問題が表面化しました。突然、労働力は賃金の問題にとどまらず、全く集まらなくなりました。一番必要とされる時に、アジアのサプライチェーンにねじれが生じ、機能しなくなることも多々ありました。また、労働者の処遇や人権についての頭の痛い問題も、中国で発生しました。それに加え、アジアでの知的財産保護は常に問題となっており、改善の兆しは全く見られませんでした。
こうしたすべての理由から、パンデミックによりニアショアリングが動き出しました。企業は、依存度を低くするために、アクセスや管理性のより高い自社のサプライチェーン構築に投資を行っています。ニアショアリングを検討する際、企業はさまざまな潜在的な利益とのバランスをとることになります。
ニアショアリングの潜在的なメリット
- 知的財産侵害の可能性を軽減: 一部の企業は、自分たちが望むような保護基準がない国で、常に危険にさらされるアイデアや情報に対処した結果、「うんざりしている」と言うだけです。
- 管理: メーカーは、ニアショアリングにより出荷と配送の制限の財務的な影響を緩和できると考えています。新たな商業ベンチャーや新製品でのコスト削減を原資に、投資を行えます。メキシコやインド、東南アジアへのニアショアリングにより、業務とコストの管理を企業が強化しているのはそのためです。
- コスト削減: 企業は、より身近な場所で事業を行うことで、より低コストでビジネスを行うことができます。出張費と物流費を低減できます。一部のニアショア国では、採用と研修のコストなしで、同等の作業品質を提供しています。
- タイムゾーンの整合: メキシコと一部の南米の国は、米国と同じタイムゾーンにあります。そのため、アジアに比べてコラボレーションがしやすく、効率的です。また、タイムゾーンを共有することで、文化的な融和を図ることができるのも利点です。たとえば、中南米でニアショアリングを行っている米国企業は、中国語の場合より、スペイン語に堪能な専門家の採用が容易な可能性が高いと言えます。
- 環境・社会・ガバナンスのサステイナビリティへの一層の注力: ニアショアリングは増加していますが、これは環境に優しい決定です。製品の移動距離の短縮。燃料消費の削減。カーボンフットプリントの改善。顧客に影響を与え、または風評被害をもたらし、環境に悪影響をもたらす可能性のある問題事象の発生リスクが低下します。
ニアショアリングは、ヘルスケア企業の健全性に関わるものです。会社の健全性と、患者さんの健康は1本の線でつながっています。当社のビジネスで大事なのは、サプライチェーンの末端にいる人々だということを、決して忘れてはなりません。
世界にはたくさんのNickがいるのです。
John BollaはUPS Healthcareの社長