概要
5月上旬以降、海上貨物市場は想定外の水準まで輸送能力が逼迫して運賃が上昇するなど、さまざまな要因により混迷を極めており、パンデミックの頃を彷彿とさせるほどです。その影響で海上貨物市場では繁忙期が早まり、NVOCC(非船舶運航一般輸送人)や運送業者と直接契約するBCO(Beneficial Cargo Owner)の双方の顧客を驚嘆させています1。そのため、荷送人と物流プロバイダーにとって、グローバルサプライチェーンに影響を与える要因と、その対応策を理解することが必須であると言えます。
海上貨物の通常の繁忙期と、繁忙期の状況
海上貨物の繁忙期は、通常は小売業者がホリデーシーズンに向けて在庫の確保の動き出す8月から10月頃で、この時期には輸送量がピークを迎え、限られた積載能力に対する需要の増加により運賃が高騰し、時には大幅に変動することもあります。
海上貨物の繁忙期が早まる理由
2023年末以降、海上運賃は上昇傾向にあるものの、ここ数か月は順調に低下しています。しかし、船腹量の変動や一部の航路における過剰な需要など、多くの要因が2024年の海上輸送の繫忙期を早めています。
市場の牽引力には以下が挙げられます。
- 紅海の収容能力: 市場に投入される新造船が大幅に増えていますが、紅海周辺の長引く混乱により世界の輸送能力のかなりの部分が吸収されています。この紛争の収束が見通せない中、運送業者はスエズ運河を回避し、アフリカ大陸南端の喜望峰への迂回を余儀なくされています。その結果、各航路の所要時間が大幅に延長され、市場の輸送能力が減退しています。全体で見ると、迂回により世界の輸送能力が前年比で9%が削減されています2。一方、輸送コンサルタントのDrewryが発行するContainer Forecasterの最新レポートによると、新造船による輸送能力の追加は8%にしか過ぎず、持続的な赤字が全体的な輸送能力を圧迫しています。 2024年現在のスエズ運河における輸送障害の詳細をお読みください。
- 予想外の需要: eコマース貨物の需要増加、在庫の補充その他の要因により、太平洋横断東回り(TPEB)とアジア・欧州の両方の輸送航路で、当初の予測をはるかに上回るレベルの需要が発生しています3。この急増に不意をつかれた業界では、船腹の争奪戦が繰り広げられています。
- ストライキの脅威:北米の国際港湾労働者協会(ILA)4とカナダの鉄道労働者5によるストライキの可能性に備えて、荷送人の多くが混乱を避けるために出荷を早めています。
こうした要因により需要が供給をはるかに上回るシナリオが生まれ、今日見られる市況につながり、現在のアジア太平洋地域の船舶利用率は100%以上に達しています6。そのため、固定運賃を品目無差別運賃(Freight All Kind、FAK)運賃に近づけようとする運送業者の努力により、今年早々にピークシーズンサーチャージ(PSS)が適用される予定です。需要が積載能力を上回っているため、運送業者はすでに収益性の高い貨物の輸送を優先し始めています。
海上貨物の輸送料金は今後数か月でどのように推移するでしょうか?
スポット運賃は上昇を続けており、少なくとも6月中旬までは2週間ごとに海上運賃一括値上げ(General Rate Incease、GRI)が予定されています。ピークシーズンサーチャージ(PSS)は6月1日から開始される予定です。アジアを出航する船舶が6月に入っても満船状態であるため、短期的に運賃値上げが続くと運送業者は予想しています。「海上輸送の繁忙期の早期化」はほぼ確実で、この状況は数か月間続くと見られています。
上のグラフは、業界における運賃の急激な変化を示しています。東西間の主要航路の運賃は、数か月にわたって下落圧力がかかった後、急速に上昇しました。5月1日から運送業者は運賃の大幅な値上げを始め、値上げは6月中も続くと予想されています。
多くの海上コンテナが積み残し(ロールオーバー)されている理由は?
以前から、運送業者は船舶をオーバーブッキングする傾向がありました。というのも、貨物を確実に搭載するために荷送人の多くが同じ貨物を複数の運送業者やNVOCCに予約し、出荷直前にキャンセルが発生する可能性があるためです。現在、荷送人とNVOCCは予約をキャンセルせずに配送しており、そのためロールプールにかなり留め置かれる事態が発生しています。通常、積み残されたコンテナは次の出港で優先されますが、運賃の急騰により、予約時の運賃によっては何度も積み残される場合があります。
海上輸送の繁忙期の早期化に備えて何をするべきでしょうか?
このような状況ですから慌てるなと言っても難しいかもしれませんが、これを乗り切るには落ち着いて計画的に行動することです。
- 発送予定日の4~6週間前に貨物を予約する。UPS® Forwarding Hubで早めに予約して、積み残しができる前に準備を済ませ、次の出港に備える。
- 在庫を確認し、緊急の貨物と数週間保留できる貨物を区別する。
- 予約したスペースを満たす。ペナルティ(将来の割り当ての減少)を避けるために、予約した量の貨物を出荷する。
- 時間的制約がある貨物については、別の輸送モードを検討する。